dress by Alice by Temperley
shoes by BELLE SIGERSON MORRISON
at Meiji Jingu Shrine
本作品の主人公は、バンクシーではない。Thierry Guetta(ティエリー・グエッタ)というLA在住のフランス人男性だ。グエッタは"自称"映画作家。どこに行くにもカメラを持ち、パパラッチのように有名人のビデオを撮影していた男。彼の"作品制作"が始まったのは1999年、親戚の食事会で彼の従兄弟が世界的に有名なグラフィティ・アーティスト「スペースインベーダー」だと知ったこと。これまで無差別な被写体を撮影していた彼は、グラフィティ・アーティストを題材に映像記録を始める。
グラフィティ・アートとは元来非合法なアートであるため、取材が許可されることはほとんどない。だがグエッタはアーティストの親戚だということもあり、シェパード・フェアリー(オバマのポスターを手掛けたアーティスト)ら有名アーティストに近づき、屋上などで隠れてグラフィティを描く姿をカメラに収めることができた。
そんなグエッタでもカメラに収められない人物がいた。それがバンクシーだ。誰もがバンクシーを褒め称えるが、その姿を見たものはいない。「ぜひインタビューしてみたいと思った」とグエッタは語る。そして遂にバンクシーに会うことができたのだが、バンクシーは彼からの取材を受け、グエッタに映画を監督する能力がないことに気付くのである。
グエッタは映画を制作していたのではなく、ただひたすら映像を撮影していただけだった。家にはラベルも貼っていないテープが山積みになっていただけ。バンクシーは「彼はたまたまカメラを持った、精神的にちょっと問題がある人間だった」と語る。普通であればそこで申し出を拒否する訳だが、バンクシーは違った。グエッタのカメラを奪い、逆にグエッタのドキュメンタリーを自分が監督すると申し出たのだ。
バンクシーの反抗心に火がついたのだろう。映画はアートに関する知識のないグエッタを売れっ子グラフィティ・アーティストに仕立て上げるプロジェクトに変わった。「Mr. Brainwash(ミスター洗脳)」という称号を与え、LAでの個展を開催するまで導いた。もちろんグエッタは絵が描けないので、"ダミアン・ハースト・スタイル"、つまり絵が描ける人をインターネットの掲示板(クレイグスリスト)で募集し、グエッタのコンセプトを絵にしてもらうだけ。果たしてこのセンセーショナルなアーティストを創り上げる目論見は成功するのだろうか…?